照明技師出身のDPとオンセットDITが作る、連続ドラマの新しい画作り


『田鎖ブラザーズ』宗 賢次郎氏 × 山口 武志氏 インタビュー 前編

連続ドラマの現場で、映像の印象を変えるためには何が必要なのか。

カメラか、レンズか、グレーディングか。

もちろん、それらは画作りに大きく関わる。しかし『田鎖ブラザーズ』の現場でまず見直されたのは、光の設計だった。

本作でDP/撮影監督を務めるのは、照明技師として多くの映画・ドラマに携わってきた宗 賢次郎氏。撮影監督でありながら、照明設計まで自身で担うという、国内の連続ドラマではまだ前例の少ない体制で現場に立った。

そして、その宗氏が現場に必要不可欠な存在として求めたのが、DITの山口 武志氏だった。

照明を知るDPが光を設計し、オンセットDITがその意図を色とデータの面から具現化する。

そこには、単なる「カメラとレンズの選択」や「LUT設計」では語りきれない、現場の光と色をめぐる密なコミュニケーションがあった。

REX GEAR MEDIAでは、宗 賢次郎氏と山口 武志氏に、『田鎖ブラザーズ』の映像設計、オンセットDITとの連携、そして連続ドラマにおける新しい画作りの可能性について話を聞いた。


©TBSスパークル/TBS 

『田鎖ブラザーズ』

2010年4月27日、殺人罪などの公訴時効が廃止された。だがわずか2日の差で、田鎖兄弟の両親殺害事件は時効を迎えていた――。法ではもう裁けない犯人を自らの手で追うため、兄・真(岡田将生)は刑事に、弟・稔(染谷将太)は検視官となり、日々の凶悪事件に対峙しながら31年前の真相に迫っていく。『アンナチュラル』『MIU404』『ラストマイル』の新井順子プロデューサーが手がける完全オリジナルのクライムサスペンス。TBS系にて毎週金曜22時放送中。最終回は、6月19日(金)放送。
※Netflixでも公開中です。

出演: 岡田将生 染谷将太 中条あやみ 宮近海斗(Travis Japan)
和田正人 飯尾和樹(ずん) 長江英和 / 山中崇、仙道敦子 / 井川遥、 岸谷五朗 ほか
脚本: 渡辺 啓 演出: 山本剛義、坂上卓哉、川口 結 撮影監督: 宗賢次郎 プロデュース: 新井順子 製作: TBSスパークル/TBS


照明を変えることで、ドラマの画を変える

── まずは、今回『田鎖ブラザーズ』にどのような役割で参加されているのか教えてください。

宗 賢次郎氏:
今回はDP/撮影監督として参加しています。もともとTBSの山本監督からオファーをいただいたのですが、その時に「TBSのドラマの映像を変えたい」「今までと少し違う画にしたい」という話がありました。

その中で、照明を変えることが一番大きいんじゃないかと考えてくださったようです。照明をやる人間が画角も作れば、より映像が変わるのではないかと。

僕としては、撮影も照明も自分でやる。その上で、海外と同じようなシステムでDITを絶対につけたいとお願いしました。

©TBSスパークル/TBS 

── 連続ドラマの現場で、DITがオンセットで関わる体制はまだ珍しい印象があります。なぜそこまでDITが必要だったのでしょうか。

宗氏:
山口氏じゃないとダメだったんです。終わってみても、やっぱり山口氏がいなければできなかった画作りだったと思います。

僕は照明技師出身なので、光や現場の画作りは感覚で進めるところがあります。「こういう感じ」「あの映画のあのシーンみたいに」と伝えることも多い。その感覚を、山口氏が具体的な映像にしてくれるんです。

壁を少し落とすとか、赤を調整するとか、スキントーンは大丈夫かとか。そういうところを一緒に確認しながら作っていけたので、すごくやりやすかったですね。僕にとって、DITは絶対に必要な相棒でした。

── 山口氏は、今回の体制をどのように受け止めていましたか。

山口 武志氏:
日本ではまだ前例の少ない体制だと思います。照明技師の方がトップに立って、カメラワークやシステムも含めて作っていくという形ですよね。

ただ僕自身は、海外のDPと仕事をしてきた経験もあったので、今回も海外DPと接するような感覚で仕事をしていました。宗氏がイメージする光のバランスを共有し、それをどうデジタル映像として構築していくかを考える。通常のデータ管理やクオリティチェックに加えて、DPの画作りを技術面から支える役割も担っていたと思います。


DITとは何か。データ管理だけではない、光と色への関わり

── そもそもDITとは、映像制作の中でどのような役割を担う存在なのでしょうか。

山口氏:
DITは、Digital Imaging Technicianの略です。

日本では、DITという仕事がいきなり一般的になったわけではなく、もともとVE、ビデオエンジニアという仕事がありました。僕自身もカメラアシスタントを経て、VEを経験し、そこからDITの仕事をするようになりました。

DITといっても、現場によって役割はさまざまです。オンセットDITとオフセットDITという考え方もあります。データ管理やフォーカスチェック、クオリティチェックに重きを置く場合もありますし、現場に密接に関わって、照明や画作りのサポートまで踏み込む場合もあります。

今回の僕の仕事は、後者に近いものでした。DPである宗氏をかなり近い距離でサポートする仕事だったと思います。

ベースで作業をする山口氏

実際に撮影現場へ出て色温度を計測する山口氏

── VEとDITの違いは、どのように捉えていますか。

山口氏:
いろいろな考え方があると思いますが、僕の中では、VEは放送規格、つまりRec.709の空間で映像を管理して、つながりも含めてコントロールしていく仕事という印象があります。放送媒体としてきれいに乗るものを作る、素晴らしい仕事です。

一方でDITは、もう少し違う場所にいる仕事だと思っています。

今はログやRAWでの収録が増えています。Rec.709になる前の段階、つまり現場の光や色がまだ大きな情報量を持っている状態で、DPや照明部と一緒にその光をどう扱うかを考えていく。

オンセットDITは、現場の光に直接タッチして、コントロールしていくことができる仕事だと思っています。

── つまり、データを管理するだけではなく、現場の光や色に関わる仕事でもある。

山口氏:
そうですね。データ管理ももちろん大切ですが、それだけではありません。

DPが何を見せたいのか。照明部がどういう光を作っているのか。その意図を理解した上で、モニターやLUT、露出、色の管理を通して、最終的な映像につなげていく。

光と色の世界に、テクニカルに関われるのがDITなのかなと思います。


感覚を伝えるDPと、それを具現化するDIT

── 宗氏は、ご自身の画作りについて「感覚で進めるところがある」とお話しされていました。その感覚を、山口氏とはどのように共有していたのでしょうか。

宗氏:
僕はかなり感覚でやるタイプだと思います。

「この映画のあのシーンみたいに」とか、「こういう空気にしたい」とか、そういう伝え方をすることが多いんです。細かく数値だけで説明するというよりは、まずイメージを共有する。

それを山口氏が具現化してくれるんです。

例えば、モニターを見ながら「ここは壁を少し落としたい」とか、「この赤はもう少し抑えたい」とか、「スキントーンは大丈夫か」とか。そういう話を現場でしていきました。

山口氏:
宗氏は、最初に方向性を投げてくれるんです。

「こういう感じが好き」「こういう世界にしたい」というものを受け取って、それをどう映像として成立させるかを考えていく。僕としては、宗氏がどうしたいのか、どういう世界に落とし込みたいのかを考えながら作業していました。

もちろん、LUTやGradingの話もあります。ただ、今回はLUTで強く作り込むというより、宗氏が作る光の世界をできるだけ活かすことを意識しました。

── LUTで作り込むのではなく、まず光を活かす。

山口氏:
そうです。LUTは上澄みのような部分もあります。もちろん、LUTによって画の方向性を作ることはできます。

でも、作り込みすぎると、ライティングで作った高度な部分を失ってしまうこともある。だから今回は、宗氏が作る光の世界をできるだけホールドしたいと思いました。

光質、光量、角度が良ければ、ルックは必ず良くなる。そこを大事にしました。

宗氏:
撮影が進む中で、山口氏がLUTをどんどんアップデートしてくれたんです。

「こういうのはどうですか」と提案してくれて、ルックも少しずつ変わっていく。現場でグレーディングしているような感覚もありました。

僕の好きな癖というか、今回の作品の癖を、山口氏がつかんできてくれたんだと思います。例えば少しグリーンを出すとか、蛍光灯っぽさを残すとか。逆に、僕はマゼンタがあまり好きではないので、そこは自然と弾いてくれていました。

そうやって、どんどん効率的になっていくし、画のクオリティも上がっていったと思います。


過去と現代を、画角とルックで描き分ける

── 『田鎖ブラザーズ』の画作りでは、最初にどのような方向性を考えたのでしょうか。

宗氏:
まず、過去と現代の話になるので、それをどう映像のトーンで区別するかを考えました。

画角を変えるのはどうか。ルックを変えるのはどうか。そういうことを、山口氏とも相談していきました。

最初に決めていたのは、現代をアナモレンズで撮ることです。僕自身、アナモレンズが好きだったこともありますし、テレビドラマではあまりやっていないと聞いていたので、挑戦してみたいと思いました。

今回の撮影で使用されたレンズ(DZOFilm PAVO Anamorphic)

── そこから、過去パートの見せ方も決まっていったのでしょうか。

宗氏:
そうですね。

現代をアナモで撮るとして、民放のドラマの中でどう見せるかという話になりました。最初はサイドをカットして使うことも考えていたのですが、それだとアナモの美味しいところを切ってしまう。

そこで、回想シーンをシネスコにしようという話になりました。監督もそれがいいと言ってくださって、山口氏も「分かりやすくていいんじゃないですか」と。

過去をシネスコサイズにして、画角を変え、トーンも変える。そこは最初に決めて、ブレなかった部分です。

山口氏:
一番ルックを決める上で重要なのは、もちろん脚本や物語を活かすことです。その上で、DPである宗氏の個性をどう落とし込むかを考えました。

過去と現代のギャップは、このドラマにとって大きなキーになる部分です。

ただ、ルックは作り込めば作り込むほど、違いが伝わりにくくなることもあります。作り手としては、過去も現代もそれぞれ「いいルックができた」と思っていても、視聴者にとって一瞬で時間軸の違いが分かるかどうかは別です。

今回は画角を変えることで、時間軸の違いが分かりやすくなりました。だからこそ、過去も現代もそれぞれ思い切って作り込めたと思います。

現代パートの表現:©TBSスパークル/TBS 

過去パートの表現:©TBSスパークル/TBS 


“テレビドラマとしての見やすさ”と“映画的な質感”の間で

©TBSスパークル/TBS 

── ドラマではありますが、映画的な画作りは意識されていたのでしょうか。

宗氏:
意識はしていました。

ただ、映画の人が連続ドラマをやると、「画が暗い」と言われることがあるんです。それは避けたいと思っていました。

暗い画は、好きなんです。でも、テレビドラマの中で暗すぎることは、時にマイナスになる。今回はギリギリを攻めているつもりですが、そのギリギリより少し上を狙っていました。

── 明るくするのではなく、どこまで暗部を残すかという考え方でしょうか。

宗氏:
そうですね。

照明、画作りは引き算のものだと思っています。いかに影を作っていくか。そこが腕の見せ所です。

もちろん、見やすくなければいけないシーンもあります。毎回きれいに当てようとしているわけではないですし、きれいな人物だけを求めているわけでもない。

ただ、アンダーとハイのバランス、逆面の強さは常に山口氏と共有していました。

山口氏:
最初は、テレビドラマとしての明るさも意識していました。

リビングでテレビを見る人がいる。そういうフィニッシュを考えると、ある程度の明るさは必要だと思っていたんです。

現場に入ると宗氏が作る光は、かなり映画的なバランスでした。暗いけれど、その光質を崩したくない。ここでライトを足すと、芯が出てしまったり、広がり方が変わってしまう。

その時に、僕の方で感度やラチチュードの割り振りを調整しながら、宗氏が作った光の質をできるだけ保つようにしていました。

宗氏:
普通なら「ちょっと暗いので当ててください」となるところを、「いや、当てたくない」と言うこともありました。

見た目としてはすごく好きだけど、数値上は少し暗い。そういう時に、山口氏が感度や露出の側で支えてくれる。そこから、必要なところだけ少し足す。

それができたのは大きかったですね。


モニターの前だけではなく、現場の光を共有する

── お二人のやり取りの中で、特に重要だったことは何ですか。

宗氏:
やっぱり、メーターの数字を共有できたことです。

昔のフィルムの現場に近い感覚かもしれません。顔がいくつで、背景がいくつで、ここは8分の1をキープしたいとか。そういう数字を山口氏と共有できたのは大きかったです。

普段だったら撮影チーフと話すようなことを、今回は山口氏とも話していました。

山口氏:
モニターだけを見ていると、照明の意図が分からないことがあります。

モニターに出ている画は、基本的には反射の世界です。そこにどれくらいの光が届いているのか、どういう光質なのかは、モニターだけでは分からない。

だから僕は、現場に行って、メーターで測って、宗氏と話すようにしていました。

SEKONICの露出計・カラーメーターを持ち現場へ出る山口氏

宗氏:
そこは、山口氏が他のDITと違うところかもしれません。

必ず現場に来て、メーターで一回測ってくれる。そこで「ここはいくつでいいんですよね」と確認できる。そうすると、「そんなにあったなら一つ絞れるね」とか、「ここはもう少し開けようか」という話がすぐできるんです。

モニターの前だけで判断するのではなく、現場の光を一緒に見てくれる。それがすごくやりやすかったですね。


美術、俳優、光が一体になる瞬間

── 視聴者が『田鎖ブラザーズ』を見る時に、映像面で“ここを見るともっと面白くなる”というポイントはありますか。

宗氏:
一番こだわったのは、過去のLUTと現代のLUT、さらにもう一段階ある時間軸のルックです。

過去と現代、そしてその間にある時間の違いを、画角やルックでいいバランスに変えられていると思います。そこは視聴者の方にも分かりやすく見てもらえるんじゃないかなと思います。

山口氏:
僕は、美術にも注目して見てもらえると面白いと思います。

各シーンの美術がとても作り込まれているんです。その美術が役者に命を与えて、その場で生きている人たちに見えてくる。そこに宗氏が光でさらに命を吹き込んでいく。

少し粗探しをするくらいの目で見ても、「こんなところまで作っているんだ」と楽しめると思います。

©TBSスパークル/TBS 

── 美術と光、そしてDITの関係もかなり密接だったのでしょうか。

山口氏:
そうですね。

例えばカラーライティングが入ると、その色が人肌に影響する瞬間があります。ピンクやマゼンタがスキントーンに行きすぎていると感じた時に、宗氏に「この色だけ少し抑えられませんか」と相談したこともありました。

ただ、宗氏が「これは世界を構成する上で譲れない」と判断する場面もあります。その時は、光を変えるのではなく、LUTやカラーの側でどう受け止めるかを考える。

美術が完成させた空間に、宗氏が光で命を吹き込む。それをDITとしてどう支えるか。そこは今回、とても面白かったところです。


現場の空気を作ることも、DPの仕事

── 宗氏の現場にお伺いして、俳優部や監督を含め、各部署の皆さんがとても良い雰囲気で動かれている印象を受けました。現場を回す上で、意識されていることはありますか。

宗氏:
それは本当に意識しています。

みんなが楽しくやれるように、というのは常に考えています。もちろん、ふざけてはいけないシーンもあります。シリアスな場面や涙を流すシーンでは、少し前から現場を静かにする。

そういう現場の雰囲気を作っていくことも、自分の仕事だと思っています。

現場で助手とコミュニケーションを取る宗氏

── 技術面だけではなく、現場全体の空気も見ている。

宗氏:
そうですね。

『田鎖ブラザーズ』は、スタッフも若いメンバーが多かったんです。勢いが出れば、みんなついてきてくれる。僕はDPという立場でもありますし、作品の中である程度任せてもらえていたので、そこは先頭に立ちやすかったと思います。

山口氏:
宗氏は、スタッフ全員の名前を必ず呼ぶんです。

それはすごいなと思いました。名前を呼ばれることって、本人たちのモチベーションになるんだなと、現場で見ていて感じました。

宗氏:
それは、自分が助手の時の経験が大きいです。

メインスタッフの方や俳優部から名前を呼ばれたり、話しかけられたりすると嬉しかったんです。だから、今でもなるべく全員の名前を呼ぶようにしています。

1日に1回は全員と話す。そうやって現場の中に壁を作らないようにしています。


前編まとめ:照明を知るDPとオンセットDITが生んだ、新しい画作り

©TBSスパークル/TBS 

『田鎖ブラザーズ』の現場では、照明技師出身の宗 賢次郎氏がDPとして光を設計し、山口 武志氏がオンセットDITとしてその意図を色とデータの面から支えていた。

宗氏が感覚的に描く光の方向性を、山口氏がモニター、LUT、露出、色の管理を通して具現化していく。
そのやり取りは、単なるデータ管理や機材運用ではなく、現場の光そのものに向き合うものだった。

過去と現代を画角とルックで描き分け、テレビドラマとしての見やすさと映画的な質感の間を探る。
そこには、連続ドラマにおける新しい画作りの可能性があった。

後編では、ソニー VENICE 2、DZOFilm PAVO Anamorphic、DZOFilm Arles Primeといった使用機材、そしてデイフォーナイトへの挑戦を中心に、『田鎖ブラザーズ』の映像設計をさらに深く掘り下げていく。


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