第2回:フィルム現場に学ぶ露出の精度 ~ au三太郎CMの舞台裏から

フィルムでしか出せない色や質感。
その魅力を引き出すためには、光を正確に測り、階調をコントロールする「露出感覚」が不可欠でした。この感覚は、デジタル撮影が主流となった今でも、クリエイターにとって重要な財産です。
10年続く、「au三太郎」シリーズのCM。
実はこのCM、現在もフィルムで撮影されていることをご存じでしょうか。
今回は、日本の映像制作の最前線である「au三太郎」のCM撮影現場から、フィルム時代に培われた露出感覚がどのように活かされているのか前編・後編にわけて探ります。
フィルム時代に必須だった露出計
デジタルカメラのモニターで、撮影直後に映像の確認ができる現代と違い、フィルム撮影ではその場で最終的な結果を視認できませんでした。
カメラマンや照明技師は、光を正確に数値で測り、現像後の仕上がりを完璧に予測するスキルが求められました。この「感覚」は、フィルム時代の技術者にとって、経験と技術の粋だったのです。
そして、そのスキルを支えたのが露出計です。
Kodak Vision3 500T ─ フィルムが持つ色彩と質感の豊かさ
「au三太郎」のCM撮影で主に使われるKodak Vision3 500Tは、映画用フィルムの中でも特に広いラチチュードを持つことで知られています。このフィルムは、ハイライトが白飛びしにくく、シャドウ部に豊かなディテールが残るため、逆光などの厳しい光の状況でも、被写体の表情や美術の質感を損なうことなく捉えられます。

Kodak Vision3 500Tの特徴
☑︎タングステン光に最適化された高感度フィルム
ISO 500という高感度でありながら、粒子が非常に細かく、低照度下でもクリアな画質を実現します。
☑︎広いダイナミックレンジと優れた階調表現力
特にハイライトの粘りが強く、厳しい露出条件でもディテールを残します。このフィルムの特性を最大限に引き出すためには、光を厳密に測定し、狙った階調に配置する技術が不可欠です。
このフィルムの特性を最大限に引き出すため、撮影現場ではSEKONICの露出計が活躍します。


例えば、演者の顔に当たる光、背景の光、そして逆光の光量を個別に測定し、それぞれの明るさの比率(光比)を厳密に管理します。露出計で測った数値をもとに、フィルムが持つ色彩と質感の豊かさを最大限に活かすことで、デジタルでは再現が難しい、あの奥行きと温かみのあるルックが生まれているのです。

フィルム撮影を支える、SEKONICの「数値」
「au三太郎」の撮影現場では、撮影チーフや照明部の方がSEKONICのスピードマスター L-858D とスペクトロメーターC-800を手に、忙しく動き回っていました。フィルム撮影だからこそ、より光を厳密に管理しているのです。
特に印象的だったのは、撮影チーフが常に露出計を手に、カメラマンと照明部の間に立っている様子です。撮影時に起こる様々な露出の問題に対して照明技師と会話をしていました。

フィルム撮影の現場では、デジタルカメラの現場と違い、ビジコン(ビデオアシスト)を通してモニターに画が映し出されます。
当然、現像後の画とは色も露出も変わってきますが、やはり現場では色ズレや露出について議論になることもあります。この状況において、最終的な画を共通認識で管理するために不可欠なのが、SEKONICの露出計とカラーメーターでした。

ビジコンを通してモニターに映し出される画は、あくまでビジコンの設定やモニター自体の特性に依存する「見かけ」のものです。そのため、モニター上の色や露出だけを信じてしまうと、現像後に意図しないズレが発生するリスクがあります。
フィルム撮影のプロが使うのは、この「見かけの画」ではありません。彼らは露出計が示す光の量と、カラーメーターが示す光の質(色温度や演色性)を「共通言語」として使用します。この数値があるからこそ、モニター上ではどのように見えていようとも、「この設定であれば、現像後に狙い通りの色と露出になる」という確信を持つことができるのです。
このように、SEKONICの測定機器は、フィルムが持つ色彩と質感の豊かさを最大限に引き出すために不可欠な、プロフェッショナルのためのツールとして、撮影現場の信頼を支え続けています。
前編のまとめ:光を「設計」する思考
今回の取材を通して見えてきたのは、フィルム撮影の現場に息づく、普遍的な「光への向き合い方」でした。それは、モニターに映る「結果」ではなく、光そのものを数値で捉え、コントロールするという、緻密な「光の設計」です。
au三太郎の撮影現場は、SEKONICの露出計という羅針盤を頼りに、全員が同じ完成形を目指すプロフェッショナルなチームでした。フィルムで培われた、光を数値で「設計」するこの思考法は、カメラの種類や時代が変わっても決して揺らぐことはありません。
次回予告
後編では、今回見えてきた「光への向き合い方」をさらに深掘りしていきます。実際にフィルム撮影の現場で、具体的にどのように露出と色温度を合わせていったのか。SEKONICの測定値が示す技術的な意味と、それが映像表現にどう繋がるのかを解説します。どうぞお楽しみに。