「小さなカメラが見せた幻想の光景 — ソニー 『VENICEエクステンションシステムMini』が描くショートムービー『Laundry』の世界」


映画やCMなど、映像制作の現場ではカメラと照明の関係性が常に進化を続けている。
今回、ソニーの空間コンテンツ制作への取り組みの一環である立体映像の撮影に密着。撮影はコインランドリーで行われ、『VENICEエクステンションシステムMini』と『VENICE 2』が2台ずつ使用された。
カメラマン・会田正裕氏、照明・大西盛士氏という実績豊富なタッグが、限られた空間でどのように“立体的な映像世界”を作り上げていったのかを追った。

作品情報・テーマ紹介
『Laundry』は、夏の終わりの夕暮れ、コインランドリーで偶然出会った男女を描くショートムービーだ。

反射する光とランドリーマシンの回転がつくり出す“幻の一瞬”をきっかけに、二人の現実は次第に幻想へと変化していく。
やがて、光に包まれたランドリーが異世界のように輝き、二人は“妄想の中の旅”へと誘われる。

現実と夢、時間と記憶——そのあわいを描くこの作品で、
カメラと照明は単なる撮影手段ではなく、“幻を現実にする装置”として機能していた。
『VENICEエクステンションシステムMini』による立体映像が生む“現実の密度”
会田氏が手にしたソニー 『VENICEエクステンションシステムMini』 は、まさにその象徴だ。
狭いコインランドリーの空間で、被写体との距離を極限まで詰める。

『VENICEエクステンションシステムMini』 とは?

ソニー 『VENICEエクステンションシステムMini』 は、シネマカメラ『VENICE 2』のカメラヘッドを延長するためのシステム(CBK-3621XS)です 。
本機は、8.6KフルサイズCMOSセンサーを内蔵したカメラヘッド部を前機種(CBK-3620XS)より大幅に小型・軽量化することで、従来の大型カメラでは困難だった撮影の自由度を劇的に向上させます 。
<『VENICEエクステンションシステムMini』 の特徴を、現場目線で整理してみよう>
☑︎小型軽量
前機種(CBK-3620XS)よりヘッド部が大幅に小型化されており、狭い空間や特殊なリグへの設置、手持ち撮影での機動性に優れます 。
☑︎高画質センサー
『VENICE 2』8Kと同等の8.6KフルサイズCMOSセンサーを搭載しており、小型ながら高い画質を実現します 。
☑︎ドロップインND
ヘッド部にNDフィルターを直接挿入できる機構を備えています 。

撮影現場には、ソニーの空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)ELF-SR2が据え置かれていた。
上部にある視線センサーが人物の瞳の位置を認識し、それに基づいて映像を出力する仕組みになっている。これにより、3Dメガネを装着することなく、裸眼で“立体映像”を現場でリアルタイムに確認できる環境が現場に設置されていた。
2台のカメラによる立体撮影の映像を現場でリアルタイムに確認・評価できるこの仕組みは、制作のスピードと精度を飛躍的に高めていた。
「『VENICEエクステンションシステムMini』 2台で挑む“立体的な現実”」
ショートムービー『Laundry』の撮影では、この『VENICEエクステンションシステムMini』を2台横並びで使用するという、先進的な取り組みが行われました 。

▶︎撮影監督・会田正裕氏はこう語る。

会田氏:
「かつての映画は“重く安定した機材”で撮ることに価値がありました。でも今は“小さくて軽いこと”が新しい価値になっている。『VENICEエクステンションシステムMini』はその象徴で、以前ならセットをくり抜いて入れていたような場所にも、簡単にカメラを仕込めるようになったんです。」
『Laundry』では、そのVENICEエクステンションシステムMiniを2台並列に配置し、人間の平均瞳孔間距離(約64mm)で撮影。いわゆる「飛び出す3D」ではなく、“リアリティの拡張”を狙った試みだった。
会田氏:
「これまでの3Dは“飛び出す映像”でしたが、今回は“そこに存在している”ように感じる映像を目指しました。 高精細な8.6Kセンサーによって、立体化しなくても驚くほどの密度がある。撮影していて思わず『生々しい』という言葉が出ました。
画面の中に本当に人物が存在しているように感じるんです。」
この「生々しさ」という感覚は、会田氏にとって“映像のリアリティ”の再定義だった。

会田氏:
「映像というのは、“見ること”と“見えていること”が違うんです。
撮る側が『ここを見てほしい』と思っても、観客が同じように受け取るとは限らない。
けれど今回の撮影では、自分が見ている感覚と観客が感じる感覚が初めて一致した。
『エクステンションシステムMini』と『VENICE 2』が、その精度を実現してくれたんです。」
『VENICEエクステンションシステムMini』がもたらしたのは、単なる小型化ではない。
それは、“映像を感じる”という人間の感覚にまで踏み込んだ技術革新だ。
「ステレオ映像の魅力は“掴めるように見える”ことではなく、“そこにある”と感じさせること。『Laundry』のように幻想的な作品では、その没入感が現実と夢の境界を曖昧にしてくれる。
映像がリアルを超えて“生々しく”感じられること——それがこのシステムの最も大きな力だと思います。」
『VENICEエクステンションシステムMini』が示したのは、小さなカメラが“現実をどう再構成するか”という、映画表現の新しい地平だ。
そしてこの“生々しさ”こそ、テクノロジーと感覚の接点にある——
その発見が、『Laundry』の映像をより幻想的に、そしてリアルにしている。


光が物語を導く
夕暮れの光を再現するため、照明・大西盛士氏はNANLUX Evoke 5000Bを店舗入り口から斜めに差し込み、“実在する夕陽”のような立体感を作り出した。奥から差し込む夕陽を演出している NANLUX Evoke 5000B。
NANLUX Evoke 5000B
バラストレスなので、他に機材が多い現場でも移動がしやすい。
一方で、ランドリー内部にはAsteraチューブライトを複数配置。
GrandMA3で色彩変化や明滅をプログラム制御し、
現実が歪み、幻想へと切り替わる瞬間を光そのもので描いた。
コインランドリーの中にチューブライトを仕込むことで、幻想的な演出を実現
コインランドリーの窓がカラフルに光り出す
現場で、本作の照明について大西氏に話を伺いました。

照明技師・大西盛士氏インタビュー
Q1:今回の照明設計で意識された点を教えてください。
大西:
今回は後の仕上げも見据えて、色づくりに特に気を配りました。RGB原色ではなく、シアン・マゼンタ・イエローのパステルトーンで全体を構成しています。
恋愛ものなど柔らかい題材では、この色域の方が世界観に自然に馴染む。
原色だとどぎつく見えてしまうんです。
Q2:現場での操作はどのように行われましたか?
大西:
現場によっては卓が置けないこともあるので、iPadでGrandMAを遠隔操作しています。iPadの操作ですと「Blackout Lighting Console」などのアプリもありますが、色々な限界もあるのでGrandMA3を使用しました。海外では一般的ですが、日本ではまだ珍しいスタイルですね。
GrandMA3の操作をする大西氏
現場では、iPadで遠隔操作をしている
Q3:照明チームとの連携で意識されたことは?
大西:
照明設計とオペレーションを一人で両立するのは難しい。今回は照明チームの緑川くんとの連携が欠かせませんでした。僕はオペレーションに集中し、シーン転換に合わせて光を動かす。
限られた時間の中で、スピーディーに現場の要求に応えることを大切にしました。
現場の対話から生まれる映像
撮影現場では、カメラマン・会田氏と照明・大西氏が絶えず言葉を交わしながら、光と色の微妙なバランスを探っていた。
狭いコインランドリーの空間に、『VENICEエクステンションシステム Mini』 2台と複数のチューブライトが並び、わずかなトーンの違いが画全体の印象を左右する。
会田:
「このドラムの色、どうしようか。全体のバランスを見たいんだけど。
その後のカットでは、ドラムの光が順番に流れるようにしていきたい」
大西:
「そうですね。ここはオレンジにして、次のシーンでは光が流れるようなエフェクトを組み込みましょう」
演者の動きに合わせて照明の色を繰り返し調整する。
意図は瞬時に共有され、カメラが“見る光”と人が“感じる光”のわずかな差を、丁寧にすり合わせていく。
会田:
「ガラスの水滴が綺麗に映る程度の光にしてほしい」
大西:
「わかりました。では、反射が綺麗に出るような形でチューブライトで色をつけてみます」

『VENICEエクステンションシステムMini』 2台によるステレオ的な構図が生む立体感と、照明の微細な調整が重なり、現場では次第に“現実と幻想の境界”が溶けていく瞬間が見えてきた。
淡々とした調整の繰り返しが、映像の完成へとつながっていく。
日常に潜む映画的瞬間

『VENICE エクステンションシステム Mini』が記録した映像には、
限られた空間で行われた照明・美術などの細かな演出が写し取られており、
小規模ロケーションならではの密度が画に現れていた。
ショートムービー『Laundry』は、
カメラと照明の技術が融合することで、
“生々しく、そこに在る”ような映像体験を実現している。
そしてこの現場には、ソニーの開発・技術スタッフも多く参加していた。製品を設計した人々が、実際にその映像づくりの場に立ち会う——
その光景こそが、『VENICEエクステンションシステムMini』というシステムの「現場で生きる技術」であることを物語っていた。
カメラと照明、それぞれの判断が交わる瞬間を、
REX GEAR メディアが現場の視点で捉えた。
🔻ソニー公式インタビュー動画はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=9CSIpddQ9I4
クレジット
- 作品名:『Laundry』
- 撮影監督:会田正裕(株式会社 アップサイド)
- 照明:大西盛士(特殊映材社)
- 出演:藤ゆりな/大塚永士
- 主な使用機材:ソニー 『VENICE 2』『VENICEエクステンションシステムMini』空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)
- 取材・文・写真:REX GEARメディア
