TBS アクト 須田氏・沖田氏が語る、ラージフォーマットと色でつくるドラマの画

色鮮やかな美術、キャラクター、そして登場人物たちの豊かな表情。
TBS火曜ドラマ『君の好きは無敵』の画面には、作品が掲げる「かわいい」という世界観が随所に散りばめられている。
しかし、ただ色鮮やかに、かわいらしく撮ればいいわけではない。さまざまな色やアイテムが入り混じる画面を、子どもっぽくせず、一つのドラマとして成立させる。
そのために撮影チームは、光、色、レンズ、そして人物との距離感を丁寧に組み立てていった。
その画づくりの中心に選ばれたカメラが、FUJIFILM「GFX ETERNA 55」(以下 ETERNA)だ。
今回REX GEAR MEDIAでは、『君の好きは無敵』でカメラマンを務めたTBS ACTの須田氏と、VEを務めた沖田氏にインタビューを実施。
作品で目指したルックから、ETERNAを選んだ理由、F-Log2 Cを用いた色づくりまで、実際の連続ドラマの現場で約4カ月にわたり使い込んだからこそ見えてきたETERNAについて話を聞いた。
「君の好きは無敵」 Blu-ray&DVD 2027年2月3日発売
発売元:TBS/TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
©TBSスパークル/TBS
『君の好きは無敵』






©TBSスパークル/TBS
大手経営コンサルティング会社を退職し、隙間バイトをしながら生活する草壁杏奈(松本若菜)と、偏屈で変人な訳ありキャラクターデザイナー瀬尾深月(佐野勇斗)が、世界的大ヒットキャラクターの誕生を目指して奮闘する姿を描くラブコメディ。
出演: 松本若菜 佐野勇斗 小野花梨 金田 哲(はんにゃ.) 中村隼人 白本彩奈 / 島崎和歌子 藤井 隆 / 髙嶋政伸 本郷奏多 白石加代子 ほか
脚本: 宮本武史 青塚美穂 演出: 竹村謙太郎 府川亮介 渡部篤史 尾本克宏 プロデューサー: 岩崎愛奈 取材協力: 株式会社サンリオ 製作: TBSスパークル/TBS
須田氏 プロフィール

TBS アクト カメラマン。
1991年に株式会社東通へ入社。ドラマやバラエティなどの撮影を経験し、1999年に連続ドラマで初めてチーフカメラマンを担当。以降、TBSの数多くのドラマや映画作品で撮影を手掛けてきた。2021年より株式会社TBSアクトへ。「人を感動させる映像を撮りたい」という思いから映像の世界へ入り、長年にわたりテレビドラマの現場で画づくりに携わっている。
沖田氏 プロフィール

TBS アクト VE(ビデオエンジニア)。
2009年に株式会社東通へ入社。制作技術部に所属し、スタジオバラエティや生放送などに携わりながら、ドラマの現場でも経験を重ねてきた。2021年より株式会社TBSアクトとなり、現在はドラマを中心に、VEとして撮影・モニタリングや画づくりを技術面から支えている。
テレビドラマの現場では、カメラマンとVEが連携しながら画を作る文化が長く続いてきた。デジタルシネマカメラの普及によってワークフローが変化する中でも、二人はそれぞれの立場から作品の画を組み立てている。
現場で連携をとりながら撮影する須田氏と沖田氏
「かわいいものは、かわいく写したい」——『君の好きは無敵』で目指した画
——最初に作品のお話を聞いたとき、撮影としてどのような画を目指そうと考えましたか。
須田氏:
「かわいい」がテーマだったので、かわいいものはかわいく写したい。人物もキャラクターも。
色彩豊かな美術やキャラクターが登場する本作では、劇中に映るものをできるだけ実物に近い色で見せることも求められた。
沖田氏:
見た目に、実際のものになるべく近い発色にしてほしいという話はありました。劇中に出てくるものが実際に商品になることもあるので、そこは意識していましたね。



カラフルな美術が多く、実際の色味を保つことも重要だった
——色や光について、特に意識したことはありますか。
沖田氏:
火曜ドラマなので、まず暗くなりすぎないように、というところはあります。
今回のカメラは、発色の癖や偏りがなく、目で見ている色がそのまま素直に出てくれると感じました。
照明については、ワイドで撮るときもワンショットを撮るときも、できるだけ柔らかく当てることを意識していました。場所が狭く、難しいこともありましたけどね。
華やかな世界観を保ちながら、色や光を必要以上に強くしない。
撮影を終えた後、制作側からは、色や物の多いセットを子どもっぽく見せず、「上品でいて華やか」に撮れていたという言葉もあったという。
“アップをアップに”——ポジティブ&パワフルな表情を捉える

本作の画づくりを考えるうえで、もう一つ須田氏が意識していたのが、人物との距離だった。
4K Premistaフォーマットで撮影する中で、須田氏は普段よりもカメラとキャストの距離が近くなる感覚があったという。
須田氏:
センサーが大きいので、キャストに近づく傾向があって。僕はそれが良かったかなと思っています。普段よりも距離が近かった印象がありますね。
一度、FUJINON ZKレンズを使用するため、4K Super35フォーマットで撮影したシーンがあって、そのときは途端にカメラから遠くなってしまいました。
それと同時に深度の変化により、やや客観的な画になってしまったと感じました。
画角の問題もありますけど、人物に近いところから大きなセンサーで撮るということ、演者との空気感が近いということが、この作品の世界観に合っているのだとその時改めて感じました。
そして、須田氏が本作で一つのテーマとしていたのが、「アップをアップに」撮ることだった。
須田氏:
大きいセンサーを使いたかったのは、センサーがもたらすその立体感で人物に視線が集中するような画にしたかったというところがあります。二人とも表情のお芝居がすごくて、顔のお芝居が達者なんですよ。
そこで僕の中では「アップをよりアップにしたい」というのがあって。
昔のドラマって、結構アップが強いんですよね。今回はそこを意識して撮影しました。
「ポジティブ&パワフルラブコメディ」というのがテーマの作品でもあったので、コメディ要素も多い中、顔のお芝居をよりアップで。ですが、ワイドになり過ぎず、よりアップという被写体との微妙なバランスを取るのには苦労しました。



ラージフォーマットならではの画を単に“ボケ”や“浅い被写界深度”として使うのではなく、人物へ視線を集め、その表情をより強く見せる。
「ポジティブ&パワフルラブコメディ」という本作の性格と、ETERNAの大きなセンサーは、そうした人物中心の画づくりの中で結びついていった。
GFXからETERNAへ——「こういうカメラがあったら」という期待

須田氏とFUJIFILMのカメラとの接点は、ETERNAが登場する以前に遡る。
2024年、イベントでGFX100 IIを目にしたことが一つのきっかけだった。
その場でFUJIFILMの担当者から動画撮影にも対応していることを聞き、「もっとシネマ撮影向けで、自分たちが現場で使いやすい形のカメラになったらいいですね」と話したという。
その後、ETERNAの発表やイベントなどを通じてFUJIFILMとのやり取りを続ける中で、『君の好きは無敵』への採用が決まった。
——実際に一作品で使ってみて、ETERNAはいかがでしたか。

須田氏:
FUJIFILMの担当者さんにも伝えてたのですが、一言でいうと、「画を作るのが楽しくてしょうがなかった」です。
これは感覚的な話なんですが、画をパッと出した瞬間に「あ、これだ」とスッと決まるんですよ。
カメラの高さをちょっと変えて、ポジションをちょっと変えて…と試行錯誤しながら画を作っていくのではなくて、スッと画が決まる感覚がありましたね。
インタビューの中で、須田氏は何度も「撮っていて楽しい」という言葉を口にしていた。
スペックだけでは表しにくいその感覚が、ETERNAを使い続けたいと思う理由の一つになったようだ。
ETERNA × TOKINA Cinema Vista-P——柔らかな人物描写を狙う
大きなセンサーを生かすうえで、レンズ選びも重要だった。
今回、メインで組み合わせたのはTOKINA Cinema Vista-Pだ。
須田氏:
このセンサーの大きいカメラをフルスペックで使おうとなると、使えるレンズはどうしても限られてきます。
イメージサークルが広いことや、長期間借りることを考えたときのコストもありますので。
その中でTOKINAのVista-Pという、少し個性のある方向のレンズを今回使ったら面白いんじゃないかと思ったんです。センサーサイズもカバーでき、コスト的にも最適かと。
“癖がある”という言い方は少し強いですけど、人物がほわっとするような、柔らかな描写にしたかったという意図もありました。
©TBSスパークル/TBS
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ETERNAのラージフォーマットによる立体感と、TOKINA Vista-Pの柔らかな人物描写。
センサーだけではなく、レンズを含めた組み合わせによって、本作の人物表現を作り上げていった。
望遠域が必要となる場面ではFUJINON Premista、ZKシリーズも使用。レンズに合わせてSuper35フォーマットへ切り替えることで、同じ作品の中でも異なる撮影方法を使い分けた。
F-Log2 CとETERNA LUTからつくる、『君の好きは無敵』の色
一方、VEの沖田氏が担ったのが、カメラから出てくる映像を作品のルックへ落とし込んでいく作業だ。
今回の撮影ではF-Log2 Cを使用。
Logで出力した映像に外部のLUT BOXでLUTを適用し、撮影現場の各モニターで完成形に近いルックを確認できる環境を構築した。
——今回のルックは、どのように作っていったのでしょうか。

沖田氏:
FUJIFILMさんが公開しているフィルムシミュレーションのLUTは、一回全部ダウンロードして見ました。
ホワイトペーパーを見ながら、同じ素材に切り替えて当てて、「これはこういうふうに出るんだ」と全部見ていきました。
カメラテストでもいろいろ試して、そこからまた調整して。最終的には公開されているETERNA LUTをベースに、色を変えたり、別のものを混ぜたりしたものを使っています。
数あるフィルムシミュレーションの中で、ベースに選んだのがETERNA LUTだった。
沖田氏:
ETERNA LUTはコントラストが滑らかで、発色に癖もありません。
フィルムっぽさが強くなりすぎずに、見た目に近い発色と柔らかなルックを作る上でベースとして最も扱いやすかったです。
須田氏:
連続ドラマって毎週地上波で見るものなので、あまり強すぎる画だと、ずっと見ていて疲れてしまうところもありますからね。
色彩豊かな作品だからこそ、強いルックをそのまま当てるのではなく、ETERNA LUTを出発点に作品へ合わせて調整していく。
画面を華やかに見せながらも「見続けられる画」にするという考え方が、色づくりにも表れていた。
長期のドラマ撮影で見えた、ETERNAの操作性
『君の好きは無敵』では、ETERNAを2台体制で運用した。
連続ドラマの現場では、画質だけでなく、限られた時間の中で設定を変更し、複数のスタッフが一台のカメラを扱える操作性も重要になる。
長期間ETERNAを使う中で、須田氏が特に使いやすさを感じていたのが、ユーザー画面だった。
——メニューやUIの使い勝手はいかがでしたか。
須田氏:
ユーザー画面がすごく良かったですね。やりたいことは、ほぼここで解決するんです。

現場中に変更するような設定は、だいたいこの画面で完結していました。通常のメニュー画面に入ることは、ほとんどなかったですね。
沖田氏:
メニューも階層が深すぎず、必要な項目へアクセスしやすい。シネマカメラとして使いやすいUIになっていると思います。
ETERNAは、ボディの両側から設定を確認・操作できる構成になっている。この点も、複数人でカメラを扱う現場では有効だったという。
沖田氏:
2画面あるのはいいと思います。カメラマン側、助手側どちらからでも操作できるし、何を操作しているのかも確認できます。
カメラマンだけでなく、助手を含む複数のスタッフが一台のカメラを扱うドラマ撮影。その中で、必要な設定へすぐアクセスできるUIや、両側から操作できる構成は、日々の撮影を支える実用的なポイントになっていた。
細かな露出調整を支えた電子式可変ND
機能面で沖田氏が高く評価していたのが、電子式可変NDだ。
沖田氏:
NDはすごく良かったですね。
0.6(ND4)から2.1(ND128)まで、0.015 ND刻みで細かく調整できますし、色転びもほとんどない。
これだけ大きなセンサーのカメラに、可変NDが内蔵されているのはとても良かったです。
撮影中に絞りやシャッターを大きく変えることなく、細かく露出を追い込める可変NDは、ラージフォーマットの画づくりを支える機能の一つとなった。
炎天下でも確認しやすかった5インチLCDモニター
本作の撮影は夏場にも及んだ。
撮影前には暑さの中での運用に不安もあったというが、実際の撮影では熱が原因となる大きな問題はなく、無事日本の酷暑を耐え抜くことができた。
また、須田氏が評価していたのが5インチLCDモニターの視認性だ。
須田氏:
ETERNAに搭載されている5インチLCDモニターは炎天下でも全然見えました。最大輝度が2000nitsと大変明るいので、真夏の炎天下でも、モニターフード無しで問題なく使えたのは良かったです。
屋内外を行き来する連続ドラマの現場において、明るい環境でも画を確認できることは、単なるスペック以上に実用性へ直結する部分だ。
「撮っていて楽しい」と思えるまで
一方で、初めて本格的に使用するカメラを連続ドラマへ投入することには、不安もあった。
——クランクインしたときは、どのような気持ちでしたか。
須田氏:
最初はめちゃくちゃ不安でした。「これ大丈夫かな」って。
自分としても、会社的にも発売して間もない初めて使用するカメラでしたので。
でも、撮影初日にその不安はなくなりました。「使っていけるぞ」「撮っていて楽しいぞ」って。
撮影を重ねるにつれて操作にも慣れ、ETERNAは日々の現場に馴染んでいった。
須田氏:
やっぱり、撮っていて楽しいというのが一番ですよね。
このカメラを選んで良かったって思いましたし、僕は絶対にもう一度使いたいです。
沖田氏:
使うなら、今度はオープンゲートで使ってみたいですね。
テレビではなかなか難しいところもありますけど、もう少しシンプルなシステムでオープンゲートを使ったら面白そうだなと思います。
作品の画を作るためのセンサーやカラーサイエンスだけでなく、UI、電子式可変ND、LCDといった日々触れる部分まで。
長期間のドラマ撮影を通してETERNAを使い込んだからこそ、画質とは別のところにある“現場での使いやすさ”も見えてきた。

第1話ラストで見えた、『君の好きは無敵』の“真ん中”
最後に、撮影の中で特に印象に残っているシーンを聞いた。
須田氏が挙げたのは、二人の掛け合いが描かれる第1話のラストだった。

須田氏:
第1話のラストシーンを撮影したときに、「この作品の真ん中を見た」ような気がしたんです。
二人の息の合った掛け合いのお芝居を撮ったときに、僕自身として二人の魅力を余すこと無く撮れたなと思えて。
カメラや画の力も含めて、この作品が目指す方向性や世界観が、しっかりと見えてきたと感じたシーンでした。
作品に流れていた「かわいい」というテーマは、画面の中だけのものではなかった。
撮影に入る際、プロデューサーからスタッフに伝えられたのは、「楽しい現場にしてほしい」「かわいい、好きと思ったら口に出してほしい」という言葉だったという。
その言葉を受け、Aカメラにはキティちゃん、Bカメラにはシナモロールを付けて、ワンクールの撮影を続けた。
Aカメラにキティちゃんをつけて撮影している現場の様子
「かわいいものは、かわいく写したい」。
そのシンプルな言葉を起点に、人物との距離、アップの強さ、ラージフォーマットによる立体感、Vista-Pの柔らかな描写、光、そして色を重ねていった『君の好きは無敵』。
そこでETERNAは、単に新しいカメラとして採用されたのではなく、作品が目指した画を形にするための選択肢の一つとなった。
そして撮影を終えた須田氏が繰り返したのは、「撮っていて楽しい」という言葉だった。
その感覚こそが、長い撮影期間を通して須田氏がETERNAに感じた魅力を、最も端的に表しているのかもしれない。
