仮想と現実を繋ぐ「共通言語」
バーチャルプロダクション(VP)における露出計の役割
近年、映像制作の現場で急速に普及が進むバーチャルプロダクション(VP)。 第4回となる本稿では、角川大映スタジオ内の「シー・インフィニティ」で行われた最先端のLEDウォール撮影をモデルケースに、「なぜ、デジタルの最前線でアナログな『露出計』が必要とされるのか」その理由を、現場で活躍する照明技師の声とともに探ります。
そもそも「バーチャルプロダクション」とは?
バーチャルプロダクション(以下VP)とは、3DCGで作られた仮想空間と、現実の被写体をリアルタイムで合成して撮影する技術の総称です。 従来のグリーンバック合成が「撮影後の編集(ポストプロダクション)」で背景を合成するのに対し、VPでは「撮影現場」で既に背景が見えている状態で撮影できるのが最大の特徴です。
その中核を担うのが “In-Camera VFX(インカメラVFX)“と呼ばれる手法です。
角川大映スタジオにて撮影されたVP『角川大映スタジオ HP movie「Floating」』はこちらからご覧ください。
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LEDウォール:背景であり、巨大な「照明」
In-Camera VFXでは、スタジオの壁面や天井に巨大な高精細LEDパネル(LEDウォール)を設置し、そこにUnreal Engineなどで制作した3DCG背景を投影します。
どんな特徴があるのか?
- 撮影当日にロケが不要:
天候や時間に左右されず、世界中のあらゆる場所(あるいは架空の世界)をスタジオ内で再現可能。 - 反射のリアリティ:
LEDウォールの映像が車体やサングラスなどに自然に映り込むため、合成感が薄れます。 - 環境光の再現:
そして何より重要なのが、LEDウォール自体が被写体を照らす巨大な「面光源」として機能する点です。

しかし、現場には新たな課題も生まれています。
それは、「デジタルの光(背景)」と「現実の光(被写体)」をいかに違和感なく馴染ませるかという点です。ここで問題となるのが、「LEDウォールの光」と、人物を照らす「照明機材の光」の質の違いです。
モニター上では一見きれいに馴染んで見えても、カメラのセンサーを通すと、肌の色が浮いて見えたり、影の色味が背景と合わなかったりする現象が起こります。これは、LEDパネル特有のスペクトル(分光分布)の偏りが原因です。
この目に見えない「光のズレ」を可視化し、修正するために、SEKONICの測定機器が不可欠となるのです。
現場の声:照明技師インタビュー
「ロケの光をスタジオで再現する。そのための数値管理」
VP撮影の現場で、実際にライティング設計を担当する照明技師に、現場のリアルな難しさとSEKONIC製品(C-800 / L-858D)の活用方法について伺いました。
── クロマキー合成と比べて、VP(LEDウォール)のライティングで難しい点は何ですか?
照明技師:
一番の違いは、「一枚画(いちまいえ)」として撮れてしまうことです。 従来のクロマキー合成なら、背景(下画)と手前の被写体は別々にグレーディング(色調整)ができるので、後から合わせやすい部分がありました。
でもLEDウォールの場合は、その場で合成された状態が「完成品」に近くなる。カメラで撮った時点で、背景と被写体の光が馴染んでいないと、ポスプロ作業が非常に大変になります。 だからこそ、「LEDウォールの光源(背景)に、手前のライティングを合わせる」という難しさがありますね。背景の世界観に合わせた空間づくりが求められます。
── 実際にライティングを組み立てる際、何から始めますか?
照明技師:
まずはホワイトバランス(WB)です。 最終的な完パケ(完成媒体)にもよりますが、打ち合わせをしてベースとなるWBを決めます。そこから、手前の空間のライティングを作っていきます。
ここで重要なのがカラーメーター(C-800)です。 ベースとなるWBに対して、LEDウォールが何ケルビンの光を出しているのか。その光の色を正確に測って、違和感をなくしていくのが第一歩です。
また、LEDウォール自体が発光しているので、その「影響光」も計算に入れます。ウォールからの光を完全に殺してしまうのではなく、その影響を活かした光量や絞り設定にしないと、その場にいるような臨場感が出ませんから。
── 近年増えているVP作品について、どう感じていますか?
照明技師:
正直、「浮いてしまっているな」と感じる映像もたくさんあります。背景と人物の「空気感」が共有されていないと、どうしても貼り合わせたような画になってしまう。
「ロケならこうはならないでしょ」という違和感ですね。 実際のロケでは、天空光(空の青さ)と直射光(太陽)、そして地面からの照り返し(環境光)といった複雑なバランスがあります。
「ロケの時に、その光のバランスを常に測っておくこと」が大事なんです。
ロケで測った数値を、スタジオのVP撮影で再現する。 モニター越しに見て「顔が明るいからOK」というような都合の良いライティングをしてしまうと、リアリティが欠けてしまいます。
── 角川大映スタジオでの撮影時は、どのようなことを意識しましたか?
照明技師:
当時はまだ日本にVPが入ってきて半年くらいの時期でしたが、昔からあるプロジェクション合成と本質は一緒だと考えていました。
一番気にしたのは、やはり「色」です。 スクリーンが出している光が何ケルビンなのか。それをSEKONICで測りながら、現実のライトと緻密に合わせていきました。


技術編
1. 「浮かない」ための色管理:C-800の活用術
インタビューの中で強調されていた「違和感をなくす第一歩はホワイトバランス」という言葉。これを実現するのがスペクトロメーター C-800です。
LEDウォールの「色」に従わせる。
照明技師の言葉通り、VPでは「背景の光」を変えることは難しいため、手前の照明を背景に合わせる必要があります。
- ウォールの測定:
C-800でLEDウォールの主要な発光部(空や光源など)を測定し、ケルビン(色温度)とΔuv(色偏差)を確認します。 - 照明の調整:
その数値に対し、人物に当てるLEDライトの設定を微調整します。
肉眼では白に見えても、LEDウォールはグリーンやマゼンタに偏っていることが多々あります。C-800で数値を合わせることで、「一枚画」としてのポスプロ耐性を高めることができるのです。
2. 「ロケの再現」:L-858Dによる光比設計
「ロケの光バランスをスタジオで再現する」。この言葉は、露出計の真価を表しています。
環境光と影響光のコントロール。
ロケーション撮影で「太陽光:天空光:照り返し」の比率を露出計(L-858D)で測っておけば、スタジオ内でそれを再現する際の明確なガイドになります。
- 影響光の活用:
インタビューにもあったように、LEDウォールからの発光(影響光)を完全にカットするのではなく、フィルライトとして活かす。その際の光量をL-858Dで測定し、カメラの適正露出(絞り)と照らし合わせることで、「その場にいるような臨場感」が生まれます。
モニターの見た目だけで判断する「都合の良いライティング」を避け、ロケ同様のシビアな光量比をスタジオに持ち込む。それがリアリティを生む鍵となります。
まとめ:デジタル空間に「確信」をもたらすツール
バーチャルプロダクションという、すべてがデジタルデータで構成される撮影環境。 しかし、そこに立つ役者は生身の人間であり、カメラが捉えるのは物理的な光です。
仮想空間と現実空間を違和感なく繋ぎ合わせる接着剤の役割を果たすのが、SEKONICの露出計とカラーメーターです。
モニターの見た目に頼るのではなく、客観的な「数値」を共通言語として、撮影部、照明部、そしてDIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)が連携する。 フィルム時代から続くこのワークフローこそが、最先端の技術を使いこなすための鍵なのかもしれません。
